グローバル企業が持つ、人材育成の盲点:L&Dプログラムにおける、業界に関連した語学研修の欠如

言うまでもありませんが、国際的に事業を展開するということは、大変なことです。Harvard Business Review の調査によると、国際的に事業展開する企業は、最初の5年間、平均して1%未満の収益しか上げられないという結果が出ているほどです。

国際的な事業展開を行う場合、L&D部門はまずカルチャー、リーダーシップ、ダイバーシティを中心とした取り組みを優先展開する傾向があります。このような鍵となる課題に取り組むことは重要ですが、しばしば語学研修は見落とされがちです。しかし、言語の問題でコミュニケーションがうまくいかないと、従業員のやる気をそぎ、ミスコミュニケーションも起こりやすくなります。このようなコミュニケーションの機能低下は、従業員の定着率や生産性、国際的なビジネス取引に影響を与え、企業において大きなコストを生み出す可能性があります。

実際、Holmes(グローバルなPR業界のリーダー的存在)が行った調査によると、従業員のミスコミュニケーションは、平均して年間6200万ドル以上の損失を企業に与えていることが分かっています。語学学習が不足すると、企業の損失が何百万ドルという額になるのは避けられないことなのです。次の段落では、この6200万ドルの損失のさまざまな側面を探り、語学学習はそれにどう影響するのかをご紹介します。

従業員の定着

非母国語でのコミュニケーションに悩む従業員は、辞めたり、解雇されたりする可能性が高くなります。大企業にとって人件費は最大のコストであり、従業員の離職や入れ替えがもたらす経済的影響は見過ごせないものです。しかし、以下にご紹介する事例が示すように、歴史的に従業員の定着率の低さに悩まされてきた業界であっても、語学力向上を目標とした人材育成プログラムを提供することで大きな利益を得ることができます。

ファストフード業界では、従業員の定着率が常に課題となっています。何年もの間、ファーストフード業界では、入社する従業員よりも退社する従業員の方が多いという状態がありました。業界の平均離職率は150%であり、何か手を打たなければならないことは明らかでした。そのような状況の中、2007年、マクドナルドは「English Under the Arches(EUA)」という語学プログラムを開始しました。このプログラムは、マクドナルドの従業員に英語研修を提供することで、従業員の能力を高めようとするものでした。

このプログラムを実施した結果、EUA参加者の88%がクラス修了後1年経ってもマクドナルドで働いており、75%が2~3年経っても会社に留まっていると報告されています。この統計は、業界の平均的な離職率が150%であることと比較すると、驚異的です。

離職者1人あたりの業界コストを5,864ドルとすると、マクドナルドはこの取り組みだけでおよそ4,900万ドルを節約したことになります。

従業員の生産性と自信 

従業員は自分の語学力に自信がないと、メールやプレゼンテーション、オンライン会議など、語学力が必要な場面を避ける傾向があります。このような回避行動は、従業員の生産性に大きな影響を与え、最終的には収益に影響を及ぼします。

グローバル企業で働く従業員が直面する言語の問題は、Journal of International Business誌に掲載された従業員の生の声から明らかになりました。

それは、このようなものでした。「英語を話せないドイツ人は、とても苦労しています。気分が乗らないし、自信もないし、口も開きません。イギリス人の同僚から電話がかかってきても、電話に出ないというケースもあります。英語が上手に話せなければ、役に立たないのです。」

国際的なビジネス取引

「時は金なり」といいますが、企業がコアコンピタンスを実行するスピードは、企業の支出に大きな影響を与えます。特に多国籍企業では、国境を越えた取り組みには通常以上の手続きが必要となる傾向があります。

国境を越えて事業を行う場合、重要な取引がミスコミュニケーションによって中断されたり、失われたりすることがよくあります。その結果、取引から得られるはずの収益が遅れたり、失われたりということがよくあるのです。実際、Economist Intelligence Unitによると、調査対象となった上級管理職の約半数が、翻訳が引き起こすミスコミュニケーションが「主要な国際取引の妨げとなり、時間を浪費した」と認めています。

ソリューション:語学学習をL&Dプログラムの「第五の柱」にする

数千万ドルものコスト削減が期待できることで、語学学習は合理的です。ビジネスクリティカルな語学プログラムを社内で開発するにしても、導入経験のある組織と提携するにしても、戦略的な語学研修への取り組みは非常に重要です。グローバルな視野を持つ企業研修担当者には、語学研修はまさに戦略的人材育成計画の鍵となり得るのです。